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既存不適格建築物とは? 

2024/07/09

コラム

法改正等によって、現在の法律に適合しなくなってしまった建築物

既存不適格建築とは、竣工時は適法に建てられていたが、法改正等によって、現在の法律に適合しなくなってしまった建築物のことです。

既存不適格建築物は、そのまま継続利用する場合には、遡及適用はしません。しかし、「増築等(←用語の意味については後ほど詳述)」を行う場合には、増築等を 行う部分だけでなく、原則既存部分も遡及適用されます。しかし、この遡及しなければいけない部分は計画の内容によって様々な緩和があるのです。

既存不適格建築物に関する緩和規定は構成が複雑で、しかも条文自体もとても読みづらく、できるだけ分かりやすく解説したいと思います。

既存不適格建築部に対する制限緩和の条文の構成は、
法第3条第2項→
法第86条の7第1項~第3項→
令第137条~137条の15
となっています。 順番に見てみましょう。

法第3条第2項

条文を引用します。

この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若 しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物 の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。

実は既存不適格建築物に関する規定は平成17年の6月の改正まで、この法第3条2項の条文しか存在せず、どのような範囲について、どのように適用するのかは、特定行政庁の運用指針に任せていた様です。
そこで、17年の法改正時に運用指針を明確化する目的で、法第86条の7が制定されます。

法第86条の7

法86条の7は「既存の建築物に対する制限の緩和」というタイトルで、法3条第2項の、規定を適用しない「範囲」を定めたものです。

条文をそのまま引用するととても長いので、要点だけを下記にまとめます。不適用とされる条項についてはリンクを参照してください。

1項
この項で定められた法および政令の条項は、政令で定める範囲において増築等(増築、改築、大規模の修繕又は大規模の模様替)をする場合には適用しない。
2項
独立部分が2以上あるものについて増築する場合には、増築等をする独立部分以外の独立部分については適用しない。
3項
この項で定められた法および政令の条項は、増築等をする部分以外の部分については適用しない。

1項では一定の規模以下で「増築等」を行う場合には既存部分に遡及しないことが定められています。小規模なものであれば、影響が少ないだろう、という考え方であると推測されます。

2項は非常に読みにくいですが、「増築等」を行う場合、既存部分で不遡及になる部分(独立部分)について定められています。

3項は「増築等」を行う場合に、既存部分で遡及されない条項が定められています。採光や換気、シックハウスなど、重要ではあるけれども、「増築等」を行うことによる悪影響が少ないと考えられる条項が、既存部分では不遡及となっています。

また、ここで重要なのは、1項において、「増築等」という言葉がこの条項で定義されている点です。この条文で「増築等」と「用途変更」が明確に区分されるのです。

法86条の7で定められた適用しない範囲

法86条の7は既存不適格建築物に対して、増築等をする場合に適用しない範囲を定めています。

その範囲が具体的に示されているのが令137条~令137条の15となります。
そのうち、

法86条の7、1項の「一定の規模以下」である範囲が令137条の2~137条の12
法86条の7、2項の「独立部分」についてが137条の13、14
法86条の7、3項の「不遡及である部分」でシックハウスの規定に関する制限の詳細が137条の15
に記載されています。

では137条には何が記載されているのでしょうか。
第137条には、既存不適格かどうかを判断する最も重要な指標の一つである「基準時」という言葉が定義されているのです。

基準時とは?

基準時とは、簡単に言えば、現行の法令に適合しなくなった時の事です。
しかし、現実にはこの基準時の考え方が結構ややこしいのです。

例えば、病院や、工場、倉庫等で多いパターンですが、何度も増築を繰り返した建物は、その増築工事の竣工時期が違うため、その間に何度か法改正があった場合には複数の基準時が存在することになります。
86条の7の1項の範囲は、主に面積で規定されているため、増築を繰り返した場合には、その基準時毎に面積が異なるので、法改正による規定がどの基準時のどの面積に於いて遡及されるのか、されないのかを個々に判断していく必要があります。

法86条の7第1項で定められた規模

法86条の7第1項で定められた、規定を受けない規模は令第137条の2~12の条項で規定されています。下記に要点をまとめます。

・令第137条の2:構造耐力関係
⇒下記で詳述します。

・令第137条の3:防火壁関係
⇒増築及び改築に係る部分の床面積の合計が50m2以内。

・令第137条の4:耐火建築物としなければならない特殊建築物関係
⇒増築及び改築に係る部分の床面積の合計が50m2以内。

・令第137条の4の2:物質の飛散、発散に対する措置関係
⇒石綿、石綿混入材料を使用しない。

・令第137条の4の3:石綿関係
⇒増築及び改築に係る部分の床面積の合計が延べ面積の1/2以内かつ、石綿等を使用しない。増築等に係る部分以外は石綿が添加された材料を飛散しないようにする。

・令第137条の5:長屋又は共同住宅の各戸の界壁関係
⇒増築後の延べ面積が基準時の延べ面積の1.5倍以内。改築の場合は改築に係る部分の床面積が基準時の1/2以内。

・令第137条の6:非常用の昇降機関係
⇒増築の場合は増築に係る部分が高さが31m以下、かつ床面積が基準時の1/2以内。改築の場合は改築に係る部分の床面積が基準時の1/5以内、かつ基準時の高さ以下。

・令第137条の7:用途地域等関係
⇒容積率、建蔽率が基準時の敷地面積に対して規定を満たし、かつ基準時の床面積の1.2倍以下。用途が適合しない場合は左記に係らず基準時の床面積の 1.2倍以下。原動機の出力や台数、容量等により適合しなくなる場合はそれらが基準時の1.2倍以下。以上が全て類似の用途間以外での用途変更を伴わない こと。

・令第137条の8:容積率関係
⇒増築等に係る部分が自動車車庫等の用途で、増築等の前のそれらの床面積の合計が基準時におけるその他の部分の床面積以下で、かつ増築等の後でそれらの部分が全体の床面積の1/5以下。

・令第137条の9:高度利用地区又は都市再生特別地区関係
⇒増築後の延べ面積、建築面積が基準時の延べ面積の1.5倍以内。建築面積、容積率は都市計画で定められた建築面積の2/3以内。改築の場合は改築に係る部分の床面積が基準時の1/2以内。

・令第137条の10:防火地域及び特定防災街区整備地区関係
⇒増築等に係る部分の面積が50m2以下かつ基準時の延べ面積以下。増築等の後階数が2以下かつ延べ面積500m2以下。増築等に係る部分の外壁と軒裏が防火構造。

・令第137条の11:準防火地域関係
⇒増築等に係る部分の面積が50m2以下。増築等の後階数が2以下。増築等に係る部分の外壁と軒裏が防火構造。

・令第137条の12:大規模の修繕又は大規模の模様替
⇒下記で詳述します。

令137条の2:構造耐力関係

構造耐力関係は分かりにくいので下記に図解します。
137-2

令137条の12:大規模の修繕、大規模の模様替え

大規模の修繕、大規模の模様替えを行う場合、下記の二点以外は、用途変更を伴わない場合原則不遡及となります。

1.構造耐力に関しては構造耐力上の危険性が増大しない範囲。
⇒荷重が増大しない範囲で、かつ構造耐力上主要な部分を変更しない場合。変更する場合はその部分についてのみ危険性が無いことを構造計算で証明する。
2.石綿と物質の飛散、発散については令137条の4の2、4の3に倣う。

法86条の7第2項で定められた遡及適用の緩和部分

法86条の7第2項では、法第20条と法第35条の一部をこの項で定義される「独立部分」に於いては遡及適用が緩和されることを定めています。 令137条の13では上記「法第35条の一部」がどの範囲か?について、令137条の14ではどういった場合に「独立部分」として取り扱うかが定められています。順番に見てみましょう。

令137条の13

令137条の13では、第35条、すなわち「特殊建築物の避難及び消火に関する技術的基準」のうち、「独立部分」に於いて遡及適用されない部分が示されています。 それらは施行令の5章の、

第2節:廊下、避難階段及び出入口
第3節:排煙設備
第4節:非常用の照明装置

となっています。

令137条の14

令137条の14では、法第20条、すなわち「構造耐力」と、上記令137条の13で示された法第35条の部分がどういう条件で「独立部分」として扱われ、遡及適用されないかが示されています。 文章だと分かりにくいので図示します。
137-14

86条の7第2項に文中に出てくる「2以上の独立部分」とは、図の様に既存部分が独立部分1と独立部分2の二つに分かれている状態を表していて、令 137条の14ではそれらを独立部分1と独立部分2として分断するための区画の仕方が法第20条、法第35条それぞれ明記されているのです。

 

 

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